山崎 朋子 文藝春秋 714円 2008年
書かれたのは1972年(昭和47年)。著者(女性。女性史研究家らしい)が、からゆきさん(日本から輸出された売春婦)の実態を取材をして調べあげて書いた本です。
2008年に文庫版が出ています。文庫版は「サンダカン八番娼館」の後に、続編的な内容で書かれた作品「サンダカンの墓」が収録されていますので、買うならこちらが良いと思います。 「サンダカン八番娼館」が271p、「サンダカンの墓」が190p、合わせて全438pです。
で、内容はですね、凄いです。よくこれだけ根気よく細かく足を使って調べられたと思う。 熊本の天草地方に「元からゆきさん」がたくさん住んでいるので、そこに行って「からゆきさん」だった老婆の家に住み込んで話を聞き出すんですな。 続編の「サンダカンの墓」は、老婆の話を基に、娼館のあったマレーシアへ行って色々調べるという内容だ。
先の時代に、からゆきさんを含む日本人移民や出稼ぎ労働者がいたことを知っている日本人は今ほとんどいない。 マレーシアのサンダカンに日本人経営の妓楼があったことなんて、昭和時代のうちに100%忘れられたはずなのに、 この舌噛みそうなマレーシアの田舎の地名と遊女屋が結びついて平成まできちんと 伝わっているということは、常識的に考えたらありえないことだと思う。
本編に書かれているような、海の向こうに日本人墓地を作った日本人がいたのと同じように、この作品を書いた人間がいたことで、 「からゆきさんがいた」ことが後世に伝えられるのだろう。私はそれを非常に価値のあることだと思うのだ。
ま、あらすじや内容は、詳しくは読んでください。文字がいっぱいある上に、プロローグがえらい難しく書かれているので、 ちょっと気合を入れないと読破できないです。本が好きなら大丈夫でしょう。 私は読んだとき、著者のやり方があまりに気合が入っているのでビビらされました。そんで一気に読みました。
えー、ただし・・。全体を通して(あとがき含む)、そこはかとなく漂うサヨク臭および女性人権活動家臭が、ダメな人にはだめだと思います。
「サンダカン8番娼館」はそうでもなく、証言どりも裏どりもロジックも書き方も素晴らしいのですが(そのやり方は賛否あろうが)、 その左寄りの臭気は、「サンダカンの墓」からどんどんに大きくなり、中盤あたりで最高潮に達します。けっこう辟易します。
このあたりはもう、証言も又聞きで、裏も取らずに自分の願望だけで悲劇的な話を展開してしまいます。典型的なサヨクの論理です。
そもそも自分の正体を隠して取材を進め、 欲しい資料(写真やら)があったのでそれを所有者から泥棒します。不誠実なやり方です(てか窃盗w)。そしてそれらを自分の研究成果発表に利用し、 自分勝手に都合よく「許してくれるはず」と解釈するあたり典型的なサヨク脳だと思います。 (あ、プレイした女のことをネットで発信している私がそんなこと言う資格はもちろんないですね。あはは。)
娼婦が自らの意思で働き、自らの意思で男に貢いだと取れる部分でも、 なぜか著者の主観が入って「自らの意思に反して広義の強制性があった=日本政府が悪い=彼女らは日本国を恨んでいた≒日本は東南アジアを侵略した(暴論w)」という形になってしまうあたりが本当に残念です。 (wikiによると著者の父親は帝国海軍の佐官で戦死しているらしいのですが・・)
でもそれを差し引いても私は二重丸で良い書き物だと評価したいです。昭和49年に映画化されています。